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あさごぜ坂

 山田(やまだ)の小池(こうじ)のあさごぜばあさんは、琵琶(びわ)を上手に弾(ひ)いた。ごぜというのは琵琶を弾く人のことをいう。ところで、あさばあさんの息子は猟(りょう)が好きで、冬、田畑の仕事が少なくなると、よく山へ行った。

 ある日のこと、山の中で人の声がする。近づいて見ると、人の話ができる大化け猫だった。息子は鉄砲をかまえた。化け猫が飛び掛ってきそうだったので、思わず引がねを引いてしまった。手応(てごた)えがあったようだった。

 家に帰ってみると、母親は体の具合(ぐあい)が悪いと言いながら布団をかぶって寝ている。

「魚が食べたい。」

と言うので、買ってきて食べさせると、大そう喜んだ。体の具合は、それでもなかなかよくならない。医者を呼んでも、布団から顔を出そうともしない。どうも様子がおかしいので、医者と2人で布団をはいでみると、大化け猫がうずくまっているではないか。正体を見破られた化け猫は、飛び跳ねて逃げ出した。

 化け猫は、息子に撃(う)たれた傷が痛むらしく、足をひきずりながら坂道をかけ登った。化け猫は、仕返しにやって来たのだった。あさごぜばあさんを食い殺した上、ばあさんの声色(こわいろ)を使って息子をだまし、油断している隙(すき)に、襲(おそ)いかかってくるつもりだったろう。

 その後、化け猫はついぞ姿を見せなくなった。化け猫の逃げていった坂道は、だれいうともなく、「あさごぜ坂」というようになった。

参考

くらしのあゆみ 阿蘇 -阿蘇市伝統文化資料集-


カテゴリ : 文化・歴史
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