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唱えごと
更新日: 2010-03-20 (土) 16:36:24 (5112d)
私たちは日々平和な生活を願っています。しかし、時には思いもかけない出来事や災難(さいなん)が降りかかることがあります。こうした場合、その災難から逃れ、大事に至らぬよう天地に声を出し、唱えごとをしてお祈りをしました。これを「唱(とな)えごと」といい、阿蘇地方ではよく使われてきました。それでは、この唱えごとは、どんな時に使われていたのでしょう。
なお、一般に唱えごとは「うたよみ」との言葉ですが、必ずしも31音ではありません。儀法(ぎほう)の例として、北坂梨(きたざかなし)では必ず唱えごとを3度唱えて最後に「アブラウ(オ)ンケンソワカ」との真言(しんごん)を唱え、口から息をフッフッと出して吹きかけます。また、唱えごとにより「こん歌で理詰(りづ)めにしますたい」とは、その頃の宮地のお年寄りの言葉です。
身体に関するもの
- 子どもが何かに頭をうちつけた時に唱えて撫(な)でる
- しびれが切れた時は額(ひたい)に3度唾(つば)をつけて唱える
- 怪我をして血が出る時に唱える
- しゃっくりが出た時に、再びこれを繰り返さないように唱える
- 眼に埃(ほこり)が入った時、その埃をとる時に唱える。
- 仲間の1人に眼病(がんびょう)が居る時に唱えれば伝染(でんせん)しないと伝える
- 眼の悪い時には各地におまつりしてある生目八幡様に幾度も唱えてお参りする
- 歯がうずく時は、朝、顔を洗ってからそのまま北を向き唱えて拝(おが)む
- 子どもの替生歯の時に下歯なら屋根の上に捨てて、上歯なら床の下に捨てて唱える
- 咽喉(のど)に魚の骨が刺(さ)さった時に3度唱えると骨がとれる
- 夜に爪を切る時に唱える
- 手首が痛む時のすら腕が折れたという時に唱える
- 手足にまめが出来た時に、手または煙管の雁首(雁八という)で撫でて唱える
- 子どもが水瘡(みずかさ)にかかった時に唱えれば治るという
- 妊婦の後産(胞衣…胎盤のこと)が下りない時に次を3度唱え、その腹を撫でまわすと立派に下りる
- 子どもが寝入ってから便所へ起きる癖(くせ)を止めるため
- 川へ小便をひっかける時の唱えごと
夢に関するもの
衣(ころも)に関するもの
動物に関するもの
- 便所で時鳥の鳴き声を聞くと、必ず大病になる
- 闇夜で烏の鳴き声を聞くと、何かの悪難が一身に降りかかる
- 特に正月や夜明け前、烏の鳴き声を聞いた時に唱えればその難から逃れる
- 道を歩いている時にイタチが横切るとその道を行くのを避けなければならない
- イタチが横切るとき、右から左へ横切る際は何事も災厄が
- 山に行く時は蛇に逢わないように、また真蛇(まへび)から食いつかれない
- 蛇に逢ってその蛇をよける唱えごと
- 馬の腹に虫が湧(わ)いてそれに苦しめられている時に唱える
異変に関するもの
- 夜星の流れ星を見ると「死人がでる」として一般によくない
- 地震の時には地表に亀裂(きれつ)が生じるため
- 雷がなる時に唱えれば落ちない
- 火事の時には、
- 火の用心に3度唱え
- 火の玉を見た時に唱えて3針縫う逆真似(さかまね)をする
- 夜中に何かある時、たとえば火事や盗人(ぬすっと)が入ったり
その他
参考
この唱えごとを『肥後国阿蘇郡俗信誌(ひごのくにあそぐんぞくしんし)』という本にまとめられたのは、昭和8年(1933)ごろに阿蘇高等女学校(現阿蘇高等学校)の教諭として勤められていた、大阪府の八木三二(やぎさんじ)先生です。先生は阿蘇郡内の町や村を回って、多くのお年寄りや村人に会って唱えごと等をよく調べ、これをまとめられたものです(今回掲載しているものは言い回しを少し変えています)。
先生は、将来世の中の移り変わりや文化の発展などにより、こうした唱えごとが死語(しご)となり、使われなくなるだろうと心配されてまとめられました。今のお年寄りたちが子どもの頃は、何かよくないことがあると祖父母や父・母が一緒になって唱えごとをして、お祈りしてもらったそうです。
ここに、改めて八木先生のご苦労に対しまして、感謝(かんしゃ)の念(ねん)をささげたいものです。
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