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根子岳(ねこだけ)の頭

 阿蘇の5つの山は東から西へつながったように並うどる。阿蘇の五岳(ごがく)たい。山がでけた順番ばいうと、最初に中岳(なかだけ)、それから往生(おうじょう)・杵島岳(きしまだけ)、続いて高岳(たかだけ)、烏帽子岳(えぼしだけ)、最後に根子岳がでけた。阿蘇の神様、健磐龍命(たけいわたつのみこと)はこの山の兄弟達をたいそう可愛(かわい)がっとった。

 末(すえ)っ子(こ)の根子岳は、兄弟のなかで一番背が低いので、いつも背伸びをしていたが一向に背が高くなる気配はなか。そっで、一計(いっけい)を案じた根子岳は、荻岳(おぎだけ)付近(ふきん)に住んどる鬼どんに頼みこんだ。

「何とか背の高うなる方法はなかろうか。あんた達の力で、ひと晩のうちに背ば高うしてもらいたかったい。兄貴んぶんな、たけえとこから、いつでんおれば見下しとるごつ見ゆっとたい。」

「そりゃあ、なかなか難しかこつばい。」

「無理な話だろが、あんた達ば見込んでの頼みたい。」
 そう簡単に引き受くるふうでもなかったばってん、隣の山の根子岳のたっての頼み、むげに断わるこつもでけんだったろたい。

「やってみろたい。」

 ちゅうて、何千匹もの鬼どもをたったたくり集めらした。荻岳の頂上から、四方八方に向かって呼びかけたったい。

「おおーい、鬼ん仲間達よ、おーい、おれん友達の根子岳が、みんなの助けがいるとよお。今夜のうちい寄ってくんなーあい。あしたの朝まじの仕事ばーい。」

 こげな言葉があるか知らんが、鬼達の耳は千里(せんり)耳(みみ)だろうな。どんな所からでも、よう聞こえるらしか。そのうえ鬼の言葉は、他のものには聞き取れん。風の音か、けものの遠吠(とおぼ)えか、はたまた、阿蘇の火口の岩石がにえたぎる、重々しい地(じ)鳴(な)りのようだった。早速のこて、九州中の鬼達が続々(ぞくぞく)と集まってきた。それも夜のうちたい。昼なら兄貴の山達に知られてしまう。こそっと、やらにゃんもんだけん、難しかこつたいね。

 鬼達も引き受けた以上、鬼の名誉(めいよ)とばかり馬力(ばりき)ばかけた。荻岳の周(まわ)りから、石という石、岩という岩を根子岳に積み上げていく。どんどん、どんどん、鬼どんな夜通(よどお)し、休みもせんで石や岩を運んだもんで、お日さんののぼらす前にゃ、兄弟中一番背の高かった四男の高岳を追い越してしもうた。

 東の空が白みはじめると、根子岳の峰々(みねみね)に雲がかかり、それはそれは美しいばかりでなく、なんともいえない気高(けだか)ささえ感じる程だったげな。ま、それも見せかけの姿だったつばってん。

「どぎやんな、兄さんたち!雲ば従(したが)えち、そびえ立っとる私の姿ば見てはいよ。」

 自分が一番えらいと言わんばかりに、根子岳は肩をそびやかしたげな。

「おいおい、お前は一番若いし末っ子だろ。何もそう急ぐこつぁなかたい。ゆっくり、じつくり生きていきゃあ、きっと立派なもんになれるはず。」

 長男の中岳の言葉は、聞く耳持たんと言ったふうで、根子岳はふんぞり返っちょった。健磐龍命は、そん様子ばじっと見ておられたちたい。

「近ごろの根子岳はわしの言うことにも、なんのかんのと口もがいして、素直に従わんこつが多くなってきた。時には、むごうはげしゅう逆(さか)らうこつもある。どうも鼻持(はなも)ちならん奴じゃ。今んうち、傲慢(ごうまん)な性根(しょうね)ば叩(たた)き直しとかにゃならん。」

 と思うち、枝をたばねた竹の棒で根子岳の頭ば叩かしたげなたい。

「兄さんたちば見下して、おごり高ぶるこたあならん。わかったかあ。」

 大きな声でいさめながら、高くなった根子岳の頭ばもとんごつしなはったちゅうわけたい。愛の鞭(むち)ということかなあ。根子岳の頭がでこぼこになっとるとは、そんためといわれとる。

参考

くらしのあゆみ 阿蘇 -阿蘇市伝統文化資料集-


カテゴリ : 文化・歴史
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