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皿皿山(さらさらやま)
更新日: 2010-03-20 (土) 19:24:18 (5123d)
昔の話です。お藤(ふじ)という娘が阿蘇のある村に住んでいました。娘のお母さんは、もうとうに亡くなって、後(あと)いりのお母さんが来ていました。継母(ままはは)というわけです。継母は自分の連れ子ばっかりかわいがり、お藤にはつらい仕事ばかりさせていました。
ある日のこと、お藤が家の前の白川(しらかわ)べりで葉っぱを洗っていました。そこに殿様(とのさま)が通りかかりました。
殿様は、かわいらしく利口そうな娘だと思って声をかけました。
「これこれ、そこの娘。わしは今、城から出て馬でここまでやって来たのじゃが、馬の足跡(あしあと)はいくつ付いたか分かるかな。」
すると、お藤は静かに顔を上げて
「恐れながらお殿さま。今、私が菜を洗いましたが、この川にたったさざ波は、いかほどなのか、お分かりでございましょうね。」
殿様は、とっさに答えたお藤のその言葉にびっくりしてしまいました。なんという利口な娘なんだろうと思ったのです。
そこで殿様はためしに歌を詠(よ)んでみました。
「流れ川 菜洗う娘の愛らしさ 背の高ければ妻とせしもの」
もう少し年が多いのであれば、自分の奥方(おくがた)にしたいのだけれど、といった意味なのです。するとすぐに娘は歌で返しました。
「峰山(みねやま)のつつじ椿(つばき)をご覧じろ、背は低けれど花は桜に」
殿様は二度びっくり。「山に咲いている花を見て下さい。小さくても桜の花のようにきれいに咲いているでしょう」という意味なのです。とっさに、これだけの歌を返せる賢さに感心したのです。
お城に帰る道すがら、あの娘のことが忘れられず、面影(おもかげ)が浮かんできます。どうしても奥方になってもらいたい。殿様はお城に帰って、早速(さっそく)家来(けらい)を呼んで言いつけました。
「今日出会ったあの娘のことじゃ。わしは気にいったぞ。奥方としてもらい受けたいものじゃ。早々に娘の家に赴(おもむ)き、これこれしかじか話をして、城に来てくれるよう頼んでまいれ。失礼があってはならんぞ。丁重(ていちょう)に話してまいれ。」
早速、家来が娘の家にやって来て、継母に話しました。
「ここには、歌を詠むのが上手な年ごろの娘がいるはず、近所のものの話では、よくそこの小川で洗い物をしている娘だと聞いたぞ。お城に来てもらいたいのじゃが、どうかな。」
「はいはい、おりますおります。」
継母は自分の子どもには、洗い物などさせたことはなかったのですが、お藤を奥の部屋にかくしてしまい、我が子を殿様のお姫様にと、さっそく奥から連れて来ました。
「この子でございます。」
「なるほど。ではこれを見て歌を詠んでもらおう。」
使いの侍は用意していたお盆の上に皿をのせ、その皿に塩を盛って松の枝をさしました。この娘は歌など作ったことがありませんでした。そこで見たままを言ったのです。
「盆の上には皿 皿の上に塩 塩の上に松」
なるほどそのとおりだけど、歌にはなっていません。侍は言いました。
「ほかに娘はいないのか。」
「もう一人おるにはおりますが、お城にあがるような娘はおりません。」
「とにかく連れてまいれ。」
そんな訳で、例の娘が歌を詠むことになったのです。娘は即座(そくざ)に歌を詠みました。
「盆(ぼん)皿(ざら)や お皿が峰に雪降りて 雪を根にして育つ松かな」
使いの侍は、早速城に帰り、殿様に申し上げました。それで、改めて殿様からの所望(しょもう)があり、お城へのお嫁入りとなったのです。
迎えの籠(かご)が来ていよいよお別れとなり、お藤が家を出るとき、継母はお藤に最後の掃除をして出るように言いつけ、ほうきを投げやりました。お藤はお迎えの籠に乗りながら、笑顔で振り返ると言いました。
「今までは お藤お藤と 言われても 今から先は お藤様々」
参考
索引 : さ
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