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根子岳(ねこだけ)の化(ば)け猫(ねこ)

(その1)猫の根子岳(ねこだけ)参(まい)り

 昔は、どこの飼い猫も必ず2~3日から長いときは半年間、猫の本山(ほんざん)である根子岳にお参りに行きました。猫が突然いなくなることがあるのはそのためで、長い間、本山にいたものは尾が2つに分れたり、口が耳までさけたりして帰ってきました。

(その2)猫の王様屋敷

 昔、根子岳には猫の王様がいて、毎年(まいとし)節分(せつぶん)の夜は阿蘇中(あそじゅう)の猫が王様にあいさつに訪れ、根子岳付近では猫の行列をみることができました。ある日、一人の旅人が根子岳で道に迷い、さまよううちに日が暮れてしまいました。

 山の中から明かりがみえるので近づいていくと、大きな門がみえ、御殿(ごてん)のようなりっぱな家が建っていました。こんな山の中にこんな豪華(ごうか)な家があるとは不思議(ふしぎ)なことだと旅人は思いましたが、泊まることにしました。

 家に入ると、若い女の人が部屋に案内しました。すると、すぐ別の女の人が入ってきて、入浴(にゅうよく)の案内をしてひっこみました。長い廊下を風呂場の方に行っていると、少し年をとった女に出会いました。女は旅人をみると、びっくりした様子で、近づいてきていいました。
「あなたがどうしてここに来られたか知りませんが、早く逃げて下さい。湯に入ると猫になってしまいます。今まで何人も迷いこんだ人間が猫にされました。私はこんなことを教えると王様から殺されます。でも、死を覚悟(かくご)で言っています。実は、私は5年前、隣にいた三毛猫(みけねこ)で、あなたからいつも可愛(かわい)がられました。その恩があるからこそ教えているのです。今すぐ逃げて下さい。」

 旅人は、猫にされてはかなわないと、三毛猫女にお礼もそこそこに、その家をとびだして一生懸命逃げました。急な坂にさしかかった時、後をふりむくと、3人の若い女が湯を入れた桶(おけ)とひしゃくをもって追いかけてきました。そして、高い所から旅人めがけて湯をふりかけました。坂の下を走っていた旅人の耳の下と足のすねのところに、そのしぶきが少しかかりました。旅人はやっとのがれて宮地(みやじ)につきました。

 しぶきがかかった所は、猫の毛が生えていました。家にかえって調べてみると、隣の三毛猫がいなくなったのは本当に5年前のことでした。

(その3)化け猫退治

 むかし、山東彌源太(さんとうやげんた)という熊本一の豪傑(ごうけつ)がいました。彼は各地で化(ば)け物(もの)退治(たいじ)をしたり、悪人(あくにん)をこらしめたりしたので、熊本では誰一人として知らぬ人はいませんでした。特に彼の百間(ひゃっけん)石垣後(いしがきあと)とびは有名で、ただ強いだけではなくて、軽業師(かるわざし)のように身の軽い人でもありました。

 ある時、彼は阿蘇神社のお祭りの日に宮地に来ました。神社にお参りして、彼は大宮司(だいぐうじ)に会いました。大宮司はいろんな話の中で、彼に根子岳の頂上の天狗岩(てんぐいわ)に住む化け猫の話をしました。当時、そこには化け猫が住み、根子岳に近づいた人は一人残らず食い殺され、誰一人帰ってきた人はいなかったからです。住民は山菜(さんさい)採(と)りにも木のきりだしにもいけず、大変困っていました。禰源太はだまって聞いていましたが、
“よし、おれが退治してやろう“
と決心していました。

 夜が更けると、愛用(あいよう)の名刀(めいとう)「頼国光(らいくにみつ)」を手にとって、ただ一人根子岳に登っていきました。天狗岩につくと、不気味(ぶきみ)な風が吹き始めましたが、化け猫も姿を現しません。禰源太は次第に疲れてコクリ、コクリと眠り始めました。

 そのとたん、雷のような大きな音をたてて、大入道(おおにゅうどう)が襲(おそ)い掛(か)かってきました。口は耳までさけ、目をらんらんと輝かせて、鋭い爪で彼に迫ってきました。とっさに我(われ)にもどった禰源太は、入道の右手の人が彼をとらえる瞬間(しゅんかん)、頼国光の名刀で「エイッ」とばかりに切りつけました。手ごたえはありましたが、それでも入道は死にものぐるいで向かってくるのです。彼も今までにない強敵なので全力をつくして戦いました。

 双方(そうほう)1時間も死力(しりょく)を尽くして戦った後、ついに大入道は頼国光の刀で胸元(むなもと)をえぐられ、死んでしまいました。

 まもなく朝日が昇ると、大入道の死体は、日の光があたった所から次第に猫に変わり始めました。そして、ついにあの大きな体が子牛ほどの大猫に変り、禰源太はその大猫の死体をかずらでぐるぐるしばって、引きずって町まで下ってきました。住民は大喜びでした。それから安心して、根子岳で山仕事ができるようになりました。

参考

くらしのあゆみ 阿蘇 -阿蘇市伝統文化資料集-


カテゴリ : 文化・歴史
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