民話
飯食わん嫁ご
阿蘇のある村に、なんさまけちんぼな男がおった。
年頃になったんで、しんせきのもん達も、そろそろ嫁ごばもろたらどうかい、とすすめるばってん
「嫁ごばもろたら、飯ば食わん女ごでんおるなら、もろてみたっちゃよかたい」
ちゅうて、ハハハハハと笑っとる。
ある日んこつ、そりやあ美しか女ごがたずねてきて
「あなたのお嫁さんにしてはいりょ。わたくしゃ、飯は食いまっせん。野良仕事でん、家んこつでん、しつかがまだします。お願いです。お嫁さんにして下さい」
男は、本気にせんだったてばってん、あんまり言うもんだけん、嫁ごにしたったい。
なるほど飯は食わんし、ほんなこつ、ようがまだすとたいね。
男は不思議に思っとった。
ある日んこつ、何気なし米びつばのぞいて見ると、飯ばいっぱい入れとったはずが、ごっそり減ってしもうとる。
「やっぱり知らんなかま、飯ば食いよるとばい。」
そう思うて「わしゃあ今から泊まりがけで、隣り村まじ出かけちくるんで、留守ば頼むばい」
そげん言うて、出かける振りばしたったい。
男は、そろっと家の裏手に回って、嫁ごの様子ばうかごうとった。
しばらく見とったが、変わったこつもなかけん、天井裏にはい上がって下を見はっとった。
やがて嫁ごは、大きなお釜さんにいっぱいの飯ば炊いて、人の頭ほどのにぎり飯を作った。
嫁ごが髪の、もとゆいを解くと、いつの間にか太かくもの姿に変わっている。
頭の上に開いた大きな口で、投げ上げたにぎりめしを受けとめると、わっしわっしとかぶりついた。
男のたまがったこつ、おもわずごくりと、つばを飲み込んだ。
くもは、男に気付いたらしく天井を見上げるとごそごそ這いあがって来た。
「あんた見たつばいね、わたしの姿。もちっと生かしとこ、と思うとったばってん仕方んなか。命は、もろうた」
そげん言いながら、飛びついて来た。男は、天井から転げ落つるごつ逃げ出した。
くもは、どんどん追っかけてくる。男は、川岸のショウブの中に逃げこんだ。
くもは、すぐに男の隠れたショウブが原にやってきて、
「そんなとけ隠れたっちゃ、すぐわかるとたい」
そう言いながら、男の隠れているショウブの間に入ってきた。
くもは、男を長い足でおさえると、大きな口を開けて食おうとした。
その時ショウブのかたくてとがった葉っぱの先が、大ぐもの目に突きささったったい。
目の見えんごつなったくもは、川に流されて死んでしもうたちゅうこつげな。
危なかったな。
五月の節句んとき軒にショウブばさすのは、魔よけの意味があるとげな。
これまじばいた。
参考
くらしのあゆみ 一の宮 -一の宮町 伝統文化研究会-
高橋 佳也